消費者庁は7月29日、2026年(令和8年)熊本地震を受け、農林水産省、厚生労働省との連名で、災害救助法の適用を受けた被災地における食品表示法に基づく食品表示基準を弾力的に運用することを、都道府県など関係機関へ通知した。被災地では、物流の混乱や包装・表示作業の遅れが想定されることから、食料の円滑な供給を最優先するための特例措置で、一定の条件を満たす場合には食品表示基準で義務付けられた表示事項の一部が欠けていても、当分の間は取り締まりを行わないこととした。
食品表示法では、名称や原材料名、内容量、保存方法、賞味期限・消費期限、製造者など、消費者が食品を適切に選択するために必要な事項の表示を義務付けている。しかし、大規模災害時には、被災地へ食品を迅速に届けることが最優先となる一方、通常どおりの表示を整えることが困難になる場合も少なくない。
こうした事情を踏まえ、今回の通知では、被災地で無償譲渡または販売される食品について、安全性に関する情報が十分に伝達され、消費者の誤認を招くような表示をしていないと判断される場合には、義務表示事項のすべてが表示されていなくても、取り締まりを行わなくても差し支えないとの考え方を示した。被災地への食料供給を円滑に進めることを重視した運用となる。
一方で、消費者の生命・健康に直結する事項については例外扱いとした。通知では、アレルギー表示と消費期限については、被災者の健康被害を防止するため何より重要な情報であるとして、従来どおり個々の容器包装への表示を義務付け、表示がなければ引き続き取り締まりの対象となることを明確にしている。災害時であっても、食物アレルギー事故や期限切れ食品による健康被害を防ぐ姿勢を維持した格好だ。
同時に公表されたQ&Aでは、表示を省略できる項目についても、消費者への情報提供は引き続き必要だとしている。具体的には、段ボールなどの梱包資材に表示事項を記載した紙を貼り付けたり、食品の数量分の表示紙を同封したりするほか、販売場所にPOPや掲示を設けるなどして、消費者が内容を確認できるよう配慮することが望ましいとしている。また、賞味期限についても、可能な限り個別表示を行うよう事業者を指導する考えを示した。
さらに、避難所などでは冷蔵設備が十分でない場合も想定されることから、消費期限や賞味期限は未開封で適切に保存されていることを前提とした表示である点にも言及。開封後の食品については食べ残しを保管せず、速やかに消費するよう指導する必要があるとしている。
今回の通知の対象地域は、7月28日までに災害救助法の適用を受けた熊本県内21市町村(10市、10町、1村)で、今後、新たな地域が災害救助法の適用を受けた場合には、その地域も対象に加えられる。
消費者庁はまた、この措置はあくまで災害時の緊急対応であり、食品表示制度そのものを緩和するものではないことを強調。消費者の誤認を招く表示や制度の特例に便乗した悪質な違反については対象外であり、関係機関と連携して引き続き厳正な取り締まりを行う方針だ。
東日本大震災や能登半島地震など過去の大規模災害でも、食料供給を優先する観点から食品表示基準の弾力運用が実施されてきた。今回の措置も、被災者へ必要な食料を迅速に届けることと、消費者の安全確保を両立させるための制度運用といえる。事業者には、表示の一部が省略できる場合であっても、可能な限り情報提供に努めるとともに、健康被害につながる重要な表示については確実に実施することが求められる。