2月17日に開催された第2回デジタル取引・特定商取引法検討会で、SNSチャット勧誘に関する相談の分析結果が示され、95%で勧誘の際に事実と異なることを告げられたり、重要な料金や解約条件などを故意に告げられていないことが明らかになった。威迫的な言動やしつこい勧誘を受けるケースが3割程度を占め、チャットが商品やサービスの勧誘であることが示されないケースが6割近くに上っていた。電話勧誘販売であれば許されないはずの勧誘が、手段がSNSチャットに変わっただけで規制の空白になるのは不合理で、「一段強い規律」を検討する方向性は合意された。悪質業者の排除と善良な事業者の萎縮回避を両立させる重要性も指摘されており、今後、問題類型をどう切り出し、どう制度設計するかが焦点になる。(相川優子)

「SNSチャット」とは、SNS(LINE(ライン)やFacebook(フェイスブック)、X(エックス)、Instagram(インスタグラム)、TikTok(ティックトック)等)で特定の相手に送るメッセージ機能をいう。
消費者庁によると、全国の消費生活センターなどに寄せられる通信販売の相談件数は、年間約30万件。この10年間、ほぼ横ばいで推移している。
一方、SNSが関係する相談件数は、2015年の2741件から2024年は3万4456件と、この10年間で10倍以上に増加。SNSチャット勧誘の相談件数(推計値、各年無作為抽出で500件を分析し判定結果を元に推計)は、2015年の467件から2024年は9018件と20倍に増えている。
無作為抽出でSNSチャット勧誘と判断した2020年から2024年の614件をさらに分析した結果、勧誘の最中に、本当ではないことを事実のように言って契約させたり、解約させないようにする行為、契約の判断に重要な事実(料金、解約条件など)を、故意に告げずに契約させる行為が95%で確認された。
脅したり、不安をあおったり、断りにくい状況を作って、無理に契約させたり解約を妨げる行為35%。何度も、執拗に、しつこく勧誘を行う行為が29%で見られた。
勧誘目的を告げられないケースが58%に上っている。例えば、無料の健康相談でアクセスしたメッセージアプリで、ダイエットサプリの購入を勧誘されるなど、消費者が相手方と連絡を取った目的と異なる商品やサービスの勧誘が、突然チャットで行われている。
これらの相談では89%の人が、返金や返品、契約解除を求めていた。


2025年度の消費者意識基本調査(全国の15歳以上の1万人対象のアンケート調査、有効回収数5473人)では、SNSチャット勧誘を受けたことがあると回答した人は1007人(18.4%)。このうちにSNSチャット勧誘により商品等を購入したことがあると回答した人は122人(12.1%)だった。購入経験者のうち、SNSチャット勧誘で購入した商品等について「不要と感じたことがある」と回答した人が63.1%に上っていた。
SNSチャット勧誘を受けた経験者(1007人)への設問では、「思いがけず突然メッセージが来たと感じた」が70.7%、「断ったにも関わらず何度も勧誘を受けた」が44.4%、「商品について事実と異なる説明があった/重要な条件明示されていなかった」が26.6%、「不安にさせる、急がさせる、怖いと感じる言い方があった」26.3%、「勧誘目的が告げられないままやり取りが始まった」24.4%と続いた。
同日の検討会では、川野玲子委員(全国消費生活相談協会専務理事)は、SNSやチャットでの誘引が「通信販売の枠組みの中で“規制の隙間”になっている」と、消費生活センターの現場でいま最も困っている類型として、SNSを入口にした副業勧誘の相談事例2事例を報告した。
1例目は、SNSでフォローしている相手からのダイレクトメッセージ(以下DM)で「動画編集で簡単に稼げる」と副業を勧誘され、別の担当者とのチャットに移行した後、丁寧な文面で個人情報を引き出され、ウェブ会議へ誘導され、約1時間程度で約40万円の高額契約(フリマアプリ決済)に至った事例。その後、クーリング・オフを申し出ても取り合ってもらえず、急に態度が変わり威圧的なメッセージが送られている。
2例目は、SNSの広告で「ブログをコピー&ペーストするだけで簡単に稼げる」「先着順」などの誘い文句を見てSNS登録し、1件1500円稼げるとの説明で個人情報を提供。電話で「大丈夫」「稼げる」「全力でサポートする」と繰り返し不安を打ち消されながら契約に誘導され、画面共有で、ネットバンキングや消費者金融のアプリ登録を、理解できないまま進めさせられた結果、消費者本人が消費者金融から借りた250万円を送金してしまった事例だ。
川野委員は、DMは相手の電話番号やメールアドレスが分からなくても直接やり取りができる点で「不意打ち性が高い」とし、会社名を名乗らず、勧誘目的も告げられず相手がどこの誰か分からないまま勧誘が進むことを問題視した。チャットのやり取りは「密室性」があり、自分のスマートフォンにだけ届く非常に丁寧で、誠実に見える言葉遣いが親密さを演出しやすい点を挙げ、「電話での勧誘よりも親密な状況にさせることが可能」と述べた。加えて「即時性が強く、判断させる時間を与えず、そのまま契約に至らせる点」も大きな特徴だと指摘した。お金を支払ってしまうと返金交渉の相手すら特定できず、救済が極めて困難だ。
川野委員は、販売目的や販売商品の内容がわからないままチャットでやり取りをするものについては、強い規律が必要と主張し、「もう猶予はない」「早く何らかの規律を入れて被害を防いでほしい」と訴えた。
樋口容子委員(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会副会長)は、欠席のため意見書が提出された。相談現場で、若年層を中心に、SNSのチャットを通じて勧誘する悪質業者が急増し、トラブル事例が多く発生している状況下で、現行法では通信販売規制しか適用されず、クーリング・オフや取消権などが一切考慮されないのは「消費者にとって取引上著しく不当」と指摘。事業者に四六時中チャットされ続けたり、受信拒否後も別アカウントから入り直されたりするなど「電話勧誘と同等かそれ以上の不可避性がある」とし、チャットを利用した不意打ち性が高く、執拗な勧誘での契約については、電話勧誘販売と同等の規律が必要と主張した。また、勧誘目的を隠匿し、必ず儲かるなどと虚偽を告げてセミナー等に誘い込み契約させる販売形態についても、訪問販売(アポイントメントセールス等)と同等の規制が必要になり得るとの考えを示した。
片岡康子委員(新経済連盟政策部長)は、不意打ち性・誘引性・複雑性の「中身」を事例から因子分解して見極めないと、規制対象がずれると指摘。ECサイト上で消費者が自らアクセスして店員と相談するチャットは店頭接客に近く、不意打ち的勧誘と同一視すべきでないと主張。チャットにもリアルタイム型とメッセージ型があり、履歴が残ることは消費者保護に資する面があるため、「ログが残る、残らない」も重要な観点だと述べた。
正木義久委員(日本経団連ソーシャル・コミュニケーション本部長)は、悪徳事業者に絞り込むため、不意打ち性・誘引性・複雑性の高いものの定義が課題だと主張。オンラインモールで消費者が自らアクセスしてサイズ等を質問・交渉するチャットや、取引後の発送連絡・評価などのやり取りは、店頭の会話と同様で不意打ち勧誘とは異なるとし、定義を工夫して“本当の悪徳”を捕まえる必要があると述べた。CtoCは外さざるを得ないとも発言している。
万場徹委員(通信販売協会専務理事)は、不意打ち性が高い、勧誘目的を告げない、虚偽説明といった行為への規制自体は重要としつつ、データとして「SNS・チャット勧誘で購入経験があるのは12%」にとどまり、そのうち不要と感じた人が60%だと指摘。限定的な領域への規制が通常取引に悪影響を与えないよう強く求めた。
島薗佐紀委員(弁護士)は、チャット等を用いた勧誘は電話勧誘販売と同様の不意打ち性があり電話勧誘販売と同等の規律(行政規制・民事規定=クーリング・オフ、不実告知取消権等)が必要と訴えた。
また、美容液の広告から動画・チャット形式アンケート・ポップアップ等で誘導する定期購入も、勧誘に近い類型として検討対象に含めるべきだと主張。SNS勧誘は分業化しがちで、契約事業者以外に勧誘代行・広告主など複数プレイヤーが関与するため、契約当事者以外の勧誘者にも役割に応じた責任を負わせるべきだと述べた。
CtoCは外すべきという意見に対し、相手が「個人名」でも特商法上は「事業者」として扱われてきた経緯があると指摘している。
河村真紀子委員(主婦連合会会長)は、電話勧誘販売で不意打ち的勧誘が規制されるのと同様に、「不意打ち性のあるチャット」には電話勧誘販売相当の強度で規律を及ぼすのがシンプルだと主張。SNSは個人を特定して迫る性質が強く、電話より強い不快感・恐怖感を生み得るとして、むしろ強い規制もあり得ると述べた。
郷野智砂子委員(全国消団連事務局長)は、SNS・チャット等による不意打ち性の高い広告勧誘は、訪問販売や電話勧誘販売と同様に、意思が不安定なまま契約に至りやすく、不要と感じる割合が高いと述べ、同等の行政規制・民事的救済が必要だと主張した。海外では通信販売にも、クーリング・オフが導入されているとし、グローバル化した市場で消費者保護水準を海外並みに引き上げる必要があると述べた。
佐藤一郎委員(国立情報学研究所情報社会相関研究系教授)は、線引き論にこだわると制度が動かず、被害に手当てできないとして、比較的広く規制対象を取り、グレーゾーンを残す一方で、善良な事業者の負担増を緩和するため、返品可能・クーリングオフ可能などを条件に義務免除する仕組みや、取引履歴(ログ)を改ざん困難な形で残し民事紛争で使えるようにすることなどを提案している。
大屋雄裕座長(慶應義塾大学法学部法律学科教授)は、「電話勧誘販売で許されないはずの行為が、手段がSMSやチャットになっただけで許容されるのはおかしい」という点は、コンセンサスが得られたと整理。善良な事業者が萎縮する規制は避け、悪質事業者排除と健全なビジネス機会の両立を図るべきだと総括した。チャット勧誘は満足する消費者も一定数いる以上、刑事罰のように一律で禁止するのは不適切で、最終的に「どの救済(例:クーリングオフ等)と結びつけるのか」と「線引きの明確性」をセットで制度設計することが焦点になるとの考えを示した。