企業の問い合わせ窓口でAIやチャットボットの導入が進む一方、「電話がつながらない」「チャットでは問題が解決しない」といった消費者の不満が増えていることが、消費者委員会がまとめた「消費者と事業者の望ましいコミュニケーションの在り方についての調査報告(案)」で明らかになった。消費者委は調査報告案で、デジタル化による効率化だけを追求するのではなく、消費者のニーズに応じて電話、有人チャット、AI、FAQなどを使い分ける「ベストミックス」が重要との考えを示している。
背景には、消費者と企業との間で広がる「コミュニケーションのミスマッチ」がある。全国の消費生活相談情報を集めたPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)では、接客対応に関する相談のうち「説明不足」と「連絡不能」の両方に関連する相談が2021年度以降、年間1300~1700件程度で推移。2025年度は1665件に増えた。商品を返品したいのに複雑な手続きを要求され電話もつながらない、問い合わせフォームから連絡しても機械的な回答しか得られず、要望を伝えられないといった事例が報告されている。
特に目立つのがAIを利用した顧客対応への相談。AIを使ったカスタマーサービスなどが原因で苦情が生じたとみられる相談は、2021年度の142件から2025年度には476件へ3倍以上に増加。電話してもAIが対応し、質問に答え続けても希望する問い合わせ先へたどり着けないといったケースが多々ある。
消費者側の不満は根強い。カスタマーサポート利用時に、「電話番号が見つからない・電話による問い合わせ方法が用意されていない」「問い合わせ方法・問い合わせ先が分かりにくい」と答えた人は合わせて約4割に上る。チャットボットを利用して問題が解決したとの回答は36.5%にとどまっている。
一方、企業に不満を伝えずに諦める消費者も多い。商品やサービスに疑問や不安があった際、9割以上がまず自分で調べると回答。商品やサービスに不満を持っても、「特に行動に移さない」とした人は63.8%に達している。こうした「サイレントカスタマー」が増えれば、企業側も消費者の不満や要望を把握できず、商品やサービスを改善する機会を失うことになる。
報告案が強調するのは、AIやデジタル化そのものを否定するのではなく、それぞれの手段の長所を生かすこと。FAQやチャットボットは24時間利用でき、簡単な質問への回答や企業のコスト削減には有効だが、個別事情を抱えた相談や緊急性の高い問題では人による対応が必要になる。特に、高齢者などデジタル技術に不慣れな消費者が、問い合わせ自体を断念することのない環境づくりを求めている。
AIについても興味深い指摘をしている。調査報告案が紹介した複数研究の分析では、顧客は平均するとAIエージェントの導入を否定的に評価しており、人間をAIに完全に置き換えるより、人間を支援するためにAIを使った方が良好な顧客価値につながるとの結果が示された。
企業にとって、丁寧な顧客対応は単なるコストではない。カスタマーサポートに不満やストレスを感じた人の66.2%が、その後の商品・サービスの継続または追加購入を見合わせたとの調査結果もある。逆に顧客満足を高めれば、再購入や口コミにつながり、新規顧客を獲得するコストを抑える効果も期待できる。消費者とのコミュニケーションを「負担」ではなく企業価値を高める投資として捉える必要性を示している。
報告案は今後の方向性として、消費者の声を「傾聴」すること、電話やAIなど各チャネルの特性を踏まえたベストミックスを追求すること、消費者が連絡しやすい仕組みを整えること、企業からのコミュニケーションの信頼性を高めることを主要な要素として掲げている。
デジタル化によって企業と消費者の接点は増えたが、「連絡手段があること」と「話が通じること」は同じではない。AIで解決できる問い合わせはAIに任せ、複雑な事情や緊急性がある場合には速やかに人につなぐ。消費者に1つの方法を押し付けるのではなく、状況に応じて選べる環境をつくれるか。調査報告案は、AI時代の顧客対応に「効率性」と「人とのつながり」の両立を求めている。