シリーズ第1回「消費者教育のいま」消費者教育、枠組み定まるも実効性が課題

連載「消費者教育のいま」
消費者教育をめぐる最新動向や現場の課題を、専門家が分かりやすく解説します。
第1回は、公益財団法人消費者教育支援センター理事長・田口義明氏が、消費者教育の現状と今後の課題を語ります。


消費者教育、もう一段の飛躍に向けて

 消費者がトラブルや被害にあわずに安全・安心に暮らしていくためには、消費者自身が自立して行動できるように消費者教育をしっかりやっていくことが大事です。この点は、誰もが異論のないところですが、これがなかなか難しい。学校や地域の現場では、消費者教育を効果的に実施していくために、これまで半世紀以上にわたり悪戦苦闘してきました。それが消費者教育をめぐる長年の歴史だったと言えるでしょう。

 消費者教育を従来よりも一段と強力に進めていくため、2012年に消費者教育推進法が制定・施行されました。この法律により、消費者教育の基本理念が定められ、国や地方公共団体における基本的な方針・計画や推進組織などの仕組みが導入されました。そうした面で、この法律は、消費者教育を前に進める上でたいへん大きなインパクトがありました。
 しかし、この法律制定のみによって、消費者教育をめぐる状況が飛躍的に変わったとは言い難いと思われます。特に、消費者教育が実際に行われる現場の実態はそうです。学校、地域、家庭、さらには職場で消費者教育をいかに実効的な形で進め、広めていくか、これが目下の大きな課題と言えるでしょう。

「消費者教育シンポジウム2026」のワークショップで、消費者教育の在り方について意見を交わす参加者(6月30日)

今どんな課題が?

 それでは、消費者教育は、今、具体的にどんな課題に直面しているのでしょうか。思いつくままにいくつか挙げてみましょう。


🔳学習指導要領の改訂と消費者教育

 第1に、学校教育についてみると、現在、その教育内容の基準や指導方針を定める学習指導要領の改訂作業が進められています。中央教育審議会の審議では、「民主的で持続可能な社会の創り手」を育てるという方向性が出されています。そのために消費者教育は何ができるのかが問われていると言えるでしょう。日々の消費活動は、地域や社会にも影響を与えることができます。その影響を考え、自らの行動につなげていく、そうした「消費者市民社会」作りに向けた消費者教育が求められています。約10年ぶりの学習指導要領の改訂が消費者教育の方向性を考える良いきっかけになることが期待されます。


🔳AI時代の消費者リテラシー

 第2に、今日のデジタル時代、特にAIの利用が急速に進む時代における消費者教育のあり方が問われています。最近では、AIが私たちの生活の中にも急速に浸透してきています。こうしたAI利用の広まりは、私たち一人一人の生活に大きな利便性、恩恵をもたらす一方で、AI依存による悪影響も懸念されます。AIがもたらす情報を前にして、それを鵜吞みにするのではなく、ちょっと立ち止まって、消費者が主体的、批判的に考える能力や習慣を身に着ける、そうした消費者教育の重要性が高まっています。


🔳金融経済教育と消費者教育

 第3に、金融経済教育と消費者教育の関係も大きな課題です。家計の資産形成を図る観点などから、金融経済教育への期待が高まる中で、2024年、金融サービス提供法に基づき、「金融経済教育推進機構(J-FLEC)」が設立され、全国ベースで各種事業が実施されています。こうした金融経済教育が投資教育に偏ることなく、その効果をあげるためには、一人一人の消費者が健全な家計管理と生活設計の力を育んでいくことが何よりも重要です。まさに消費者教育の出番です。金融経済教育と消費者教育とが連携しつつ実施されることが大切です。