シリーズ第2回「消費者教育のいま」「民主的で持続可能な社会の創り手」を育む消費者教育

連載「消費者教育のいま」
消費者教育をめぐる最新動向や現場の課題を、専門家が分かりやすく解説します。
第2回は、公益財団法人消費者教育支援センター理事・首席主任研究員、昭和女子大学大学院福祉社会・経営研究科特命教授の柿野成美氏が、次期学習指導要領で示された「民主的で持続可能な社会の創り手」という理念に注目。学校教育における消費者教育の重要性と、これからの可能性について解説します。

消費者教育シンポジウム2026「学校教育における消費者教育の可能性ー民主的で持続可能な社会の創り手を育むにはー」当日の様子

 現在、次期学習指導要領の改訂に向けた議論が進められています。中央教育審議会教育課程企画特別部会が令和7年9月25日に公表した論点整理では、改訂の方向性として、「生涯にわたって主体的に学び続け、多様な他者と協働しながら、自らの人生を舵取りすることができる『民主的で持続可能な社会の創り手』をみんなで育むこと」が示されました。この一文を目にしたとき、学校教育において、消費者市民社会の構築を目指す消費者教育の重要性は、これまで以上に高まっていくのではないかと感じました。
 消費者教育というと、契約や悪質商法、金融などの知識を学び、消費者被害を防ぐための教育というイメージを持たれることが今なお少なくありません。しかし、「自らの人生を舵取りする」「多様な他者と協働する」「民主的で持続可能な社会を創る」という理念は、まさに消費者教育が目指してきた姿そのものです。私たちは商品やサービスを購入・利用するだけではなく、日々の選択を通して社会を形づくる存在でもあります。


 こうした問題意識のもと、(公財)消費者教育支援センターでは、「学校における消費者教育の可能性―民主的で持続可能な社会の創り手の育成とは―」をテーマに、消費者教育シンポジウム2026を開催しました。学校関係者、行政、企業など約200名が参加し、これからの消費者教育の在り方について議論を深めました。
 基調講演では、教育アドバイザーの工藤勇一氏から「消費者教育は当事者教育である」という印象的な言葉が投げかけられました。知識を教えることが目的ではなく、自ら考え、判断し、対話を重ねながら社会をよりよくしていく主体を育てることが教育の本質であり、消費者教育もその例外ではないという提起です。また、スマートニュースメディア研究所の山脇岳志氏は、生成AIやSNSの普及によって、偽情報や誤情報、ダークパターンなど、人々の判断を巧みに誘導する情報環境が広がる中で、情報を吟味し、自ら判断する力、すなわち消費者教育でも重視してきた批判的思考力の重要性を指摘されました。
 パネルディスカッションでは、高校家庭科での実践をもとに、正解を教えるのではなく、「なぜそう考えるのか」「自分ならどうするのか」を問い続ける授業づくりが紹介されました。また、探究学習や地域との連携を通じて主体的に考え、判断する力を育む取組も報告され、消費者教育は一つの教科に閉じるものではなく、学校教育全体を貫く視点であることが改めて共有されました。
 特に印象に残ったのは、参加者の反応です。「講師陣、参加者、運営スタッフの熱量が感じられ、自分の当事者意識が醸成されたように思う」「学校教育現場の改革や学習指導要領の改訂も含めたパラダイムシフトが必要な時期に来ていることが分かった」といった感想が寄せられました。知識を得るだけではなく、グループディスカッションを通じて、自らの立場で考え始める人が生まれたことこそ、このシンポジウムの大きな成果だったと思います。
 消費者教育は、これまでも自立した消費者の育成に大きく貢献してきました。しかし、生成AI等が急速に進化する今、その役割はさらに広がっています。自ら考え、判断し、多様な他者と協働しながら、よりよい社会を創っていく市民を育むこと。それは、次期学習指導要領が掲げる「民主的で持続可能な社会の創り手」の育成と重なります。今回のシンポジウムを通じて、消費者教育は学校教育の周辺にあるテーマではなく、その理念を具体化する重要な教育領域であることを改めて実感しました。私たちも、多様な主体との連携を深めながら、その期待に応えていきたいと考えています。