地方消費者行政を支援する国の交付金が見直され、配慮を要する消費者の見守り強化や相談員の担い手確保などの特定業務に取り組む場合、相談員人件費を継続的に支援できる枠組みが整えられた。交付金を積極的に活用し、予算措置にとどまらない制度改正・法改正につなげ、恒久的な相談員人件費への財政支援を実現する必要がある。2月14日、適格消費者団体「消費者支援ネットくまもと」(青山定聖理事長)が熊本県弁護士会と共催したシンポジウムでは、「相談と啓発は車の両輪、見守り強化ための啓発に対応できるよう相談員の増員を」「消費者行政部門を事務分掌の中に明確に位置付け、専任職員を増やすことが重要」「職員には、消費生活センター運営のほか、庁内連携や地域団体への働きかけ、組織立ち上げなども求められる」「現場に『頑張れ』と求めるだけでは限界がある。地域の消費者団体や専門家団体が連携して声を上げ、予算・人員増を求めていくことが必要」などの意見が出され、今後、各地の消費者団体や専門家団体も交付金活用のための運動に取り組むことを呼びかけた。(相川優子)

このシンポジウムは、「消費者被害を埋もれさせない!!~待ちの相談対応から脱却する体制整備とするために~」をテーマに開催され、オンライン併用で約140人が参加した。
冒頭、熊本市出身の木原稔官房長官がビデオメッセージを寄せた。
木原官房長官は、「昨年もこのシンポジウムに参加し、消費者庁の交付金の活用期限到来によって、熊本県内の相談窓口が危機的な状況に直面しているという切実な声を聞かせてもらった。交付金を何らかの形で存続させるべく活動を始めると約束した」と振り返り、「2025年度補正予算で制度の直しを実現することができた」と報告した。
また、「消費者問題の現場は地方にある。地方消費者行政の充実強化なくして、消費者の安全・安心は守れない」と述べ、「ぜひともこのリニューアルされた交付金を積極的に活用してほしい」と新たな交付金の活用を呼びかけた。
地方消費者行政強化交付金は、2025年度補正で17.6億円(前年度16億円)が措置され、2026年度予算案には15億円(同15.5億円)が計上されている。合わせて32.6億円(同31.5億円)となる。
交付金の見直しのポイントについて、消費者庁の赤井久宣・地方協力課長が説明した。
見直しの狙いの1つは、交付金により積み上げてきた相談体制の弱体化を食い止めることにある。従来の推進事業は、立ち上げ支援として相談員人件費を10分の10補助するなど手厚い措置が講じられてきた一方、財政当局からは「いつまで立ち上げなのか」と厳しい姿勢も示されてきたという。
これに対し、見直し後は「③相談機能維持・未然防止強化型」メニューにより、形を変えて事実上2029年度まで延長が可能になった。
最大のポイントとして赤井課長が挙げたのが、「立ち上げに限らず、時限でもなく、相談員人件費を含めて安定的に支援するメニュー」(④~⑦)を設けた点だ。
具体的には、④見守りの強化、⑤広域連携の強化、⑥相談員の担い手確保、⑦特定領域相談・市町村支援強化といった、現行の地方交付税措置で想定する標準業務を上回る特定業務を推進する場合は、相談員人件費も含めて支援できるようにしたことが、今回の見直しの大きな特徴だと説明した。
国費で相談員人件費を支援することを巡っては、財政当局からは「相談対応は自治事務であり、財源についても地方交付税で措置(基準財政需要の算定で消費者行政の経費を計上)している以上、国費で相談員人件費を出すのは筋が違う」との考えがこれまで示されてきた。しかし、消費者行政予算のほとんどを相談員人件費が占めている自治体も少なくない。消費者庁は、地方自治体から集約される約90万件の相談情報が、消費者庁を始め各省庁の行政処分等の法執行や法改正・制度改正に活用されているなど、国の消費者行政の基盤となっている実態を踏まえ、「相談の関連する一連の業務は、自治事務といっても単なる住民サービスにとどまらない面もある」と整理した。
また、消費者庁は地方支分部局を設置して、地方に相談員を直接配置することなく、地方自治体とのつながりを基盤として事務を推敲するなど、財政的な観点からも効率的なネットワークを構築している。そのため、「国の消費者行政の不可欠の基盤となっている現場の相談体制の安定のため、交付金を有効に使わせてほしい」と訴え、理論武装や資料整備も含め、相当の覚悟で見直しに臨んだと報告した。
一方で、見直しが大きかったことに加え、自治体の予算要求に時間的余裕がなかったこと、周知不足もあり、本年度当初予算からの活用が難しい面があるとも指摘した。その上で、「運用に課題があれば、その都度見直し、新たなメニューが有効に使われるよう努力していきたい」と述べた。

見守りについて赤井課長は、消費者安全法に消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)の規定が導入されてから約10年が経過したが、設置は567自治体(全自治体の約3分の1)にとどまると報告した。
消費者庁が処分事業者から入手した顧客名簿(いわゆる「かもリスト」)の共有など制度上可能な事項は様々あるものの、まずは、「高齢者らに身近に接する多様な関係者にネットワークに参加してもらい、消費者にきめ細かく情報を届け、何か異変に気づいたときは消費生活センターにつないでもらう仕組みを作ってほしい」と強調した。
警察との連携では、警察庁が県警に対し協議会への参加など協力を促す通知が発出されている。一方、多忙な福祉分野との連携は課題とし、今後、地域に応じた取組事例を収集・整理して紹介していきたいとも述べた。
熊本県消費生活課の浦田武史課長は、県内の消費生活相談体制の現状と課題を説明し、国の新たな交付金を活用して体制の充実・強化を図る考えを示した。
県内では、14市すべてに消費生活センターが設置され、町村も含め全自治体に相談窓口が整備されている。広域連携は9地域33市町村で進む一方、相談員の配置がない自治体もあり、県として広域連携の取り組みを支援する方針を示した。
近年の相談件数は県全体で1万6000件超と増加傾向にあり、市町村が7割、県が3割で、市町村への相談が増えているという。住民10万人当たりの相談員数は、全国平均2.7人に対し熊本県は5.4人で、全国3位の水準にあるなど、体制整備は一定程度進んでいるとした。
一方で、課題として次の3点を挙げた。1点目は「次世代の相談員の育成」。県内の相談員約70人で、7割近くが60~70代と高齢化が進んでおり、将来の担い手確保が急務とした。2点目は「デジタル化への対応」。インターネットやSNSの普及、キャッシュレス拡大により相談内容が複雑・多様化しているという。3点目は「配慮を要する消費者への対応」。高齢化が全国平均より進んでおり高齢者被害の増加が見込まれるほか、若年層の多重債務相談が増加傾向にある。また、訪日・在留外国人が約3万人に増え(伸び率全国7位)、今後、外国人からの相談増加も想定されるとした。
こうした課題に対応するため、「相談体制の充実・強化が必要」とし、「国の新たな交付金が課題解決に活用できる」との考えを示した。現在策定中の「第5次熊本県消費者基本計画(2026~2031年度)」には、「国の交付金を活用し、相談員の担い手確保、相談窓口の広域連携、その他重点課題に対する市町村の体制整備を支援」することを盛り込んだという。県としても、「市町村の実情やニーズを把握し、丁寧に意見交換しながら進める」と話した。
また、「高齢者や障がい者など配慮を要する消費者の被害の防止には、地域での見守り活動が重要」とし、県内6市に設置されている消費者安全法に基づく見守りネットワークの活動を「交付金を活用し、県内全体へ広げたい」と述べた。
10市町村広域連携の中心市として相談対応にあたっている人吉市地域コミュニティ課の赤池健志郎課長(人吉市消費生活センター長)からは、現状と国の新たな交付金活用に向けた検討状況が報告された。
人吉市消費生活センターは、2009年8月に人吉市単独で開設後、2014年度から10市町村の広域連携を開始した。2024年度の相談者数は536人で、60代以上の相談が6割を超えている。相談内容は週1回センター全員で共有している。
また、毎月1回社会福祉協議会や福祉課、ハローワークなどとの調整会議を開催するほか、「人吉球磨生活支援ネットワーク」として相談員と町村担当者による共有会議も行なっている。出前講座は年30~40回実施し、防災放送を活用した詐欺被害防止の呼びかけや街頭活動などにも取り組んでいるという。
ただし、5人いた相談員は3人に減り、本年度から職員も3人から2人(所長と係長)に減っている。
交付金の新たなメニューについては、相談機能を維持するための①「相談機能維持・未然防止強化型」は引き続き活用していく方針を示した。検討中のメニューに、出前講座や見守り活動を行う新たな役割や処遇改善の支援事業になっているとして④「相談・見守り連携強化型」を挙げた。特に⑤「広域連携強化型」は、広域連携を支える調整役(ファシリテーター)を配置する中心自治体が対象で「当センターにとってはありがたい事業」としつつ、配置や位置付けの整理が今後の課題とし、さまざまな形を検討している段階だと報告した。
人口約2万4000人の阿蘇市では、「生活相談センター」として、消費生活相談と生活困窮者自立支援を一体的に担う体制で運営されている。
消費生活相談件数は、2024年度に535件と過去最高となり、年間450件程度と高水準で推移している。相談員は1人体制のまま来所相談が約6割を占め、複雑化する案件への対応負担が増している。年間10件程度の出前講座等にも対応している。相談員人件費等に充当していた国の交付金が2022年度に活用期限を終えた後は、市の一般財源で事業を継続しているが、今後の見通しは不透明だという。
2026年度には新たな交付金メニューである「相談見守り連携強化型」の活用を検討し、従来からの出前講座等による未然防止・救済の取組強化につなげたい考えだ。一方、同メニューは、補助額が約250万円見込まれる反面、その同額分を消費者行政予算として充当する要件があり、具体的な使途を固めきれず申請に踏み切れていないと報告した。自治体が活用しやすいよう、予算要件の緩和を求めた。
交付金の新たな強化メニューは、相談員の報酬引き上げや相談員の増員、担い手確保、相談員養成などによる体制強化を主眼としている。これまで確保してきた一般財源を肩代わりする目的で交付金が活用されることがないよう、原則として、前年度の消費者行予算を減らさないことが要件として設定されている。消費者庁は、消費者行政担当部署の努力ではいかんともし難い組織全体の一律シーリングに伴う予算減などは除外するなど、柔軟に対応する方針を示している。交付金の予算措置は30億円程度に限られているため、可能な限り相談員人件費への活用を促し、制度改正や法改正につなげ、恒久的な相談員人件費への財政支援実現を図りたいところだ。

同日のパネルディスカッションでは、「体制整備に向けた現状と課題を受けて、私たちにできること」をテーマに意見が交わされた。
熊本市職員として長く消費者行政に関わり、消費生活専門相談員の資格を持つ熊本消費者協会の東原福美会長は、「相談と啓発は車の両輪である」と力説した。相談情報をもとに啓発を行ない、啓発を行うことが相談につながるとして、啓発に対応できるよう相談員を増員し、交付金の新メニューを効果的に使ってほしいと強く要請した。
同協会は複数の自治体に相談員を派遣し、出前講座も多数実施してきたが、啓発に出ると相談現場の人手が薄くなるというジレンマがある。相談員を増員して、啓発に十分対応できるようにすることや、消費者団体に委託して相談員を育成する事業や担い手を発掘する事業に交付金を活用することなどを提言した。
東原会長は、直面する最大の危機に相談員の高齢化を挙げた。熊本県内の相談員は60代、70代が7割近くを占める。県から受託している「消費生活相談員資格取得支援講座」など、次世代の相談員育成事業の継続を強く求め、「今後も様々な人材を掘り起こして、相談員の担い手を養成する必要がある」と訴えた。
東原会長は元行政職員の立場から、地方消費者行政を前に進めるには、まず自治体の事務分掌の中に消費者行政を明確に位置づけることが重要だと述べた。その上で、できれば専管部署として組織体制を整備し、専任の職員を配置することが必要で、予算確保にもつながると指摘した。
また現状について、職員が相談対応を「相談員に任せているから」と関与しない声を耳にするとし、「相談員への丸投げでは絶対にダメだ」と強調した。担当職員は、必要な情報を収集して相談員を支え、相談の現場で相談員が困ったときに手助けできる力量を持つべきだという。現場からは「社会福祉協議会に啓発講座を依頼したいが職員が動いてくれない」といった声もあるとして、職員が消費者行政の重要性を理解し情熱をもって取り組めば、庁内の他部署や社会福祉協議会・地域包括支援センター等の身近な福祉関係機関ともつながり、啓発の機会を確保し、相談につなげる動きも作れると述べた。
さらに、消費者庁や熊本県が、県内市町村がその実情に応じ消費者行政を推進していけるよう、引き続き支援していくことを要請した。

「埼玉消費者被害をなくす会」理事長で地方消費者行政に詳しい池本誠司弁護士は、地方消費者行政の体制整備を進める上で「頑張れ」と現場に求めるだけでは限界があるとして、地域の消費者団体や専門家団体が連携して、地域で起きている被害や必要な施策を「外側から」示し、予算・人員増を要求していくことが必要だと呼びかけた。
相談・啓発の直接の担い手である消費生活相談員が高齢化し、新規確保が難しい一方で、実務は専門家に近い説得・あっせんを要し人材が不足している。自治体職員もセンター運営にとどまらず、庁内の関連部署との連絡調整、組織立ち上げ、地域団体への働きかけによる啓発推進など、コーディネート力が求められるが、多くが兼務で担っており負担が大きい。この状況を変えるには、自治体の中で外から声を上げ、交付金は単に事業費を埋めるものではなく、地域で消費者の暮らしの安心・安全を守るための「力をつける」基盤整備に使うよう求めていくことが大切だと訴えた。
相談員の担い手確保についても、資格取得後の採用に限らず、交付金の新たなメニューで位置付けられた「修習生」制度を活用し、ベテランが新人を育てる仕組みを各地に広げる必要があると指摘した。
国の国家資格対策講座受講者が実際の雇用に結びつきにくい現状があるとして、地域で声をかけ参加してもらう、本人の同意を前提に消費者庁から受講者情報の提供を受けて採用に結びつけるなど、自治体で工夫して努力してほしいと提案した。
池本弁護士は、交付金活用の要点を「体制を作る」だけでなく「活動が回る状態にする」ことの重要性についても語った。埼玉消費者被害をなくす会では、県の委託で見守りネットワークづくりを進める際に、一般市民を消費者被害サポーターとして養成・登録し、継続的なフォローアップ研修を行い、地域ごとにグループ化して啓発活動につなげてきた。
協議会を作って年1回集まるだけでは実効性が乏しい。交付金は、相談員が見守りの担い手へ最新情報を提供できる点が重要で、国の財政支援を活用して相談員を増員し「福祉関係者+市民担い手+センター」の連携を具体的に動かすべきだと述べた。
日本司法書士会連合会の稲本信広専務理事は、交付金活用を進める上での強みとして、司法書士が全国各地に存在し、平時から住民相談や救済業務を担っている点を挙げた。
その上で、消費者庁が用意した新しい交付金を自治体が実際に使えるよう促すこと、全国の関係者に伝わる形でシンポジウム等の周知活動を行うこと、弁護士会や消費生活センターと協働することなどを今後の活動方針として示した。
交付金を「あるのに使われない」状態にしないため、職能団体の全国的なネットワークを通じて、自治体側の理解と意思決定を後押ししていく考えを示した。
熊本県弁護士会消費者問題対策委員会の原彰宏委員長(消費者支援ネットくまもと理事・専門部会副部会長)は、交付金を相談員や行政職員の実務力強化にさらに活用することを求めた。
熊本県弁護士会では県・市の消費生活センター向けに、弁護士が講師となり、相談員が悩む事例を法的にどう解決するか、どう交渉していくかといった勉強会を定期的に実施し、相談員養成講座にも講師を派遣していると報告した。交付金を勉強会の回数増や体制拡充に活用し、地域の消費者被害対応力を強化することを提言した。
一方で、適格消費者団体の活動がボランティア精神に大きく依存しており、そのままでは持続・継続が難しいという課題も率直に語った。差止請求の活動自体は学びが多く評価も得られる一方で、それだけではメリットが見えにくく担い手側の負担が大きい。後輩や新たな担い手を誘いにくいと述べた。
日本の消費者行政が一定の水準を保っている背景に、見返りを求めない善意やボランティアを尊ぶ文化があるのではないかとしつつも、「善意だけに頼る構造」はいずれ崩れるおそれがあると警鐘を鳴らした。担い手を継続的に育て、活動を長く続けるには、一定の「報われる仕組み」や予算による支えが不可欠との問題意識を示した。