連載「消費者教育のいま」
消費者教育をめぐる最新動向や現場の課題を、専門家が分かりやすく解説します。
第3回は、公益財団法人消費者教育支援センター副主任研究員の河原佑香氏が、高齢者の消費者被害を防ぐ「見守り」を取り上げます。高齢者本人の「備え」だけでは防ぎきれない被害を、家族や福祉関係者、地域の事業者など、周囲の人々がどう支えるのか。見守り活動の現場で生じる戸惑いや課題を踏まえ、見守る人を支える消費者教育の役割を考えます。
今年7月、認知症の高齢女性に対し、高額な住宅工事契約を結ばせた疑いでリフォーム会社の社長らが逮捕される事件がありました。点検と称して住宅を訪ね、水漏れを偽装して修繕工事を勧める。いわゆる「点検商法」の手口によるものです。工事は6回にわたり、代金は2千万近くにのぼりました。
報道によると、社員らは訪問先で認知症の住人を見つけると「ド当たり」などと情報共有していたといいます。被害に遭いやすい高齢者を意図的に探し、標的にしていた実態がうかがえます。
こうした高齢者をねらう悪質商法による被害をどう防ぐか。被害が生じたとき、いち早く気づき、救済につなげられるか。対策が迫られています。
高齢者の消費者被害を防ぐには、本人の「備え」と周囲の「見守り」、この2つをいかに充実できるかが鍵となります。
「備え」は、高齢者本人が悪質商法の手口や対処法を知り、被害を避けるために判断し、行動する力を身につけることです。被害に遭いにくい「環境づくり」も含まれます。迷惑電話対策などもその一例です。
しかし、本人の備えだけでは、巧妙化する悪質商法の被害を防ぐには限界があります。特に高齢になり認知機能の低下が重なると、合理的に判断したり、周囲に助けを求めたりするのが難しくなりがちです。
だからこそ重要になるのが、周囲の「見守り」です。異変に気づき、声をかけ、必要に応じて消費生活センターなどの専門機関につなぐ。そうした周囲の働きかけが、被害の防止と救済につながります。
見守りは、立場が違えば、気づける変化も違います。家族のほか、福祉関係者、地域の事業者、近隣住民など、さまざまな人が担い手になることが求められます。
消費者教育も、高齢者に備えを促すだけではなく、多様な見守りの担い手を育み、その活動を支えることが重要になっています。
消費者被害には見守りが大切という認識が根付きつつある一方、その実践は容易ではありません。
私たち消費者教育支援センターが、見守り活動者を対象とした研修を行うなかでも、「どう声をかければよいのか」「契約やお金のことに、どこまで踏み込むのか」といった戸惑いが聞かれます。また、自然に声をかけるための「きっかけがない」という声もあります。
まず「見守り活動への戸惑い」は、見守りの知識を得るだけではなかなか解消できません。実際の場面を想定した練習などを通して、実践的な力をつけることが重要です。
当センターの研修でも、「異変のサイン探し」や「声かけワーク」として、被害にどう気づき、声をかけるか。具体的なケースを基に体験して、見守り活動のイメージを掴めるようにします。
ほかにも見守り活動者同士や消費生活センター関係者を交えた「対話」を通して、よりよい対応や連携の形を見出すのも有効です。

自然に声をかけるための「きっかけづくり」も欠かせません。役立つ啓発ツールも消費者庁などにおいて充実が図られています。(※1)
当センターでも、民生委員の声をもとに、注意喚起のリーフレットを開発しました。(※2)最新の手口と対策、相談先、日頃の備えを増やす「安心度チェック」を掲載しています。読みやすさに配慮し、見守り活動の際「こんな手口に気をつけて」と説明しやすい内容にしています。