終わり見えない定期購入、止められるのか

9割が「定期購入ではない」と誤認

肝心な条件奥深く、カウントダウンで焦らせる

 2022年の特定商取引法改正後も相談件数が高止まりし「終わりが見えない」定期購入トラブルに、有効な対策を講じることができるのか。3月16日に開催された「デジタル取引・特商法検討会」で、9割近くの人が定期購入と認識しないまま契約している実態が明らかにされた。2022年改正で最終確認画面の義務表示等が義務付けられたにもかかわらず、規制を逃れるために手口が変化し、定期縛りや解約などの肝心な条件は小さく奥深くに隠し、カウントダウン表示などで焦らせ、消費者の意思決定が歪められている。EUや米国のダークパターン規制を例に「誤認させる手法」「執拗・威迫する攻撃的手法」の2つの行為を悪質な行為として法律で規律し、柔軟な対応が可能となるよう具体的な内容は下位法令や指針等で措置を講じる提案がされた。方向性について異論が出ていない一方で、事業者側の予見可能性や過度の負担への懸念は強く、違法か適法か明確にすることを求めている。ダークパターンに世界水準の規制を導入し、「2回目で発覚し、解約できない」形で繰り返されてきた定期購入被害を抑え込める制度設計とできるのかが問われている。(相川優子)

「誤認」と「攻撃」を法律で規律へ 海外法制例に、具体は下位法令・指針で

改正法施行後3年9カ月、未だに相談件数増加傾向

 国民生活センターが「お試し価格」をうたう定期購入の相談が急増していると最初の注意喚起を行ったのは2016年6月。2011年度(520件)の10倍以上になったと報告された2015年度の相談件数は5620件だった。
 2022年6月1日から施行された改正特商法では、詐欺的な定期購入商法に対応するため、通信販売の最終確認画面に6項目の表示を義務付け(法12条の6第1項)、これらを誤認させるような表示を禁止(法12条の6第2項)。直罰や法人重課、取消権などが整備された。
 改正法が施行されて3年9カ月。相談件数は高水準で推移している。2026年2月末時点で、2021年度5万8534件、2022年度9万8192件、2023年度8万315件、2024年度8万9392件、2025年度7万6673件(前年同期7万6529件)と、未だにわずかではあるが増加傾向だ。

定期購入の相談件数

「定期購入かどうか」87.1%が誤認、2回目送付後に気づく78%

 消費者庁が分析した結果、2024年度の相談8万9892件のうち、87.3%がインターネット通販によるものだ。2024年度の通信販売の相談約33万件のうち、1円以上の取引をした相談(実数非公表)のうち、87.1%の人が「定期購入かどうか」を誤認していた。次いで多かったのは「解約条件」で20.8%、「回数縛りの有無」が17.9%ある。誤認に気づいたタイミングは78%が2回目送付後。解約ができない理由には、57.2%が連絡期限の超過や、回数縛り、高額な手数料等の規律を挙げていた。24.8%は連絡不能等の解約手段の妨害を挙げている。

消費者が誤認した取引条件
解約できない理由

法改正後に手口巧妙化、重要情報「読ませない」設計広がる

 消費者庁は、定期購入の相談が減らない背景について、前回改正が無意味だったからではなく、規制を踏まえて手口が変化・巧妙化しているためだと説明する。近年は、不良品・未着など品質や履行のトラブルよりも、取引条件の誤認に起因する相談の比重が高まっている。
 取引条件を誤認させる消費者トラブルでは、ダークパターンが組み合わせて用いられ、日本で被害が顕著な定期購入では、肝心な取引条件を目立たない位置や小さな文字で奥深くに隠す、利用規約に埋め込む、カウントダウン表示や、残りいくつなどの表示で焦らせて十分に読ませないなどの設計が、蔓延している。
 また、契約直前・直後に「よりお得なクーポン」などを登場させ、条件変更や追加契約であることを認識しないまま契約させるアップセルの手口も増加。消費者の意思形成を歪める点が課題だと位置づけている。さらに虚偽・誤認に当たらない「不安をあおる」「急かす」「脅す」といった威迫困惑・執拗な攻撃的手法も問題になりつつあるとしている。


米国 不公正・欺まん的行為を禁止、EU 誤認惹起行為・攻撃的慣行を禁止

 米国とEUはいずれも、個別の禁止行為の列挙だけでなく「包括的な一般条項」とそれを具体化するガイドライン等を組み合わせて規律している。
 米国ではFTC法により、不公正または欺まん的な行為・慣行を違法とする一般的な規定を置き、何が不公正・欺まんに当たるかはガイドライン等で具体化している。EUでも不公正取引方法指令(UCPD)で、誤認惹起行為や攻撃的慣行を禁止する枠組みを設け、ガイドラインやブラックリスト等によって具体例を示し、執行の明確性と柔軟性を両立させているという。


海外法制例に、悪質手法を2本柱で

 消費者庁は、米国・EUのように「法律レベルでは包括的な禁止・規律を置き、具体的内容はガイドライン等で明確化する」方向が望ましいと提案した。背景には、インターネット取引では表示・UI(ユーザーインターフェース)を使った手口が変化しやすく、個別列挙型の規制だけでは後追いになり、執行上も違法性の判断が明確になりにくいという問題意識がある。
①取引条件を誤認させる手法、②執拗・威迫的などの攻撃的手法を悪質な行為と位置付け、インターネット取引の実態に適合した形で規律を整備する。その上で、事業者・消費者・執行の現場が判断しやすいよう、ガイドライン等で考え方や典型例を整理し、透明性を高めるとともに、環境変化に応じて見直し可能な運用を目指す方向性を示した。


事業者側範囲の明確化要望、過度な負担へ慎重論

 消費者庁が示した方向性に大きな異論は出ていない一方、事業者側委員からは慎重論が相次いだ。
 片岡康子・新経済連盟政策部長は、抽象的な枠だけ先行すると「大体のレベル感、価値観が共有できないとさすがに困る」「曖昧な枠だけ作って、具体的な内容は後で詰めます、は避けて」と求めた。
 竹廣克・アジアインターネット日本連盟も、電話勧誘の定義をそのままネットに当てはめることに懸念を示し、消費者が登録・連携した店舗からの案内など、通常の連絡・やり取りまで規制対象になる可能性がある点に懸念を示した。
 万場徹・通信販売協会専務理事は前回改正を踏まえ「詐欺的定期購入に絞って規制するという話だったが、実際に定期購入どころか単品購入にも規制が入り、相当なコスト負担が正常な取引をしている事業者にさえあった」と指摘、定義や範囲の慎重な検討を求めた。大森俊一・日本訪問販売協会専務理事も「多数を占める通常の事業者にとって過度の負担とならない」点を重視した。


相談現場「今、手当が必要」「悪貨は良貨を駆逐する」

 相談現場からは、被害が長期化・高止まりしている現状から、インターネット取引の規律を実効的に強化すべきだという意見が強く示された。
川野玲子・全国消費生活相談員協会専務理事は、2022年改正で最終確認画面の表示義務が導入された後も、手口が変わって相談が終息していない現状を説明した。以前は「2回目が届いて定期購入と気づく」相談が中心だったが、現在は「一回限り・解約不要」などの広告表示で消費者を誘引し、最終的には定期購入になっているケースがあるほか、「割引の表示やクーポン提示を入口に、アップセルで定期購入に誘導される」手口も見られると説明した。
 解約段階では「ページが次々と出てきて、どこから解約するのかわからない」「解約は電話かメールに限定され、電話がつながらず、メールも返答がない」などの”解約妨害”の相談が多いと述べた。消費者が安全・安心に取引できる環境整備の必要性を訴えた。
 樋口容子・日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会副会長も、悪質な事業者が横行すると「悪貨は良貨を駆逐する」と述べ、正当な事業者を守る意味でも悪質行為を許さない規律が必要だと主張した。特に、重要条件がスクロールしないと出てこないような不明瞭表示は消費者に著しい不利益を与えるとして、条件が一面で分かり、納得できなければ訂正・再確認できる仕組みを徹底することが、信頼回復につながるとの問題意識を示した。さらに「ネットは切れば終わり」という見方に対し、若年層ほどネット依存度が高い中で、関係を断っても別アカウントから接触されるなど「執拗に追い詰められる」事例があるとして、精神的負担の観点からも看過できないと指摘した。


表示・告知義務と禁止行為、事業者側 予見可能性が不可欠

 検討会では、誘導的な表示やUIにどう対応すべきかも論点になった。誤認を防ぐための表示・告知義務として、「勧誘者の氏名の表示・告知(※生成AIによる場合はその旨の表示も案)」「広告・勧誘である旨の表示・告知」「商品の種類・性能等の表示・告知」が論点に示された。攻撃的な手法については、「威迫・困惑・迷惑行為の禁止」や「再勧誘の禁止」が検討対象となった。
 事業者側からは、規制の範囲や文言が広すぎたり曖昧だったりすると、真面目な事業者ほど萎縮し、適法な工夫まで阻害されるとの懸念が示された。特に「威迫・困惑」や「再勧誘」などは線引きが難しく、予見可能性を確保する具体化が不可欠と主張。表示義務を増やしすぎると、最終確認画面に規約を大量に詰め込んで同意させるだけになり、かえって消費者が理解しにくくなる恐れがある。さらにUI変更は容易ではなく、導入コストや運用負担にも配慮が必要、などの指摘があった。


相談現場、規律強化を要請、個別勧誘 勧誘者氏名表示も必要

 これに対し、ネット取引では誤認を招く表示や不明瞭なUIが多く、消費者の自律的な意思決定が歪められているとして、法的規律の強化が必要との指摘が出ている。
 支払総額・回数・解約条件など重要事項は「見やすい位置で容易に認識できる」形で表示を義務化し、最終確認画面でも誤認が起きないよう分かりやすく示すべきという意見が多い。
 また、広告である旨の明示(ステマ対策)や、チャット等の個別勧誘では責任追跡のため勧誘者の氏名表示も必要、威迫・困惑による追い込み勧誘も禁止すべきと主張された。ガイドラインだけでは実効性が弱く、法令での明確化も求めている。
 この論点については次回4月16日に、再度詰める。意思形成を歪める手法に対して、契約時・解約時にどう対応するかが検討される。


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