SNSのダイレクトメッセージなどを使った個別勧誘に、電話勧誘販売と同等の規制を導入する動きが一段と明確になった。消費者庁の「デジタル取引・特定商取引法等検討会」は9月2日、第9回会合を開き、中間取りまとめ案を議論した。8月24日の第8回で示された案を修正し、SNSなどの「チャット等」による不意打ち的な勧誘について、契約時にも原則として電話勧誘販売と同等の規律を設ける考えを明記。8日間のクーリング・オフや不実告知、再勧誘の禁止などを柱に、デジタル時代に合わせた特定商取引法の見直しを進める方向を示した。
現行の特商法では、通信販売は消費者が広告を見て自ら商品を選ぶことを基本としており、訪問販売や電話勧誘販売のような「勧誘行為」そのものへの規制は原則として設けられていない。だが、SNSの普及によって状況は変化している。事業者が特定の消費者にメッセージを送り、会話を重ねながら当初予定していなかった商品やサービスへ誘導する取引が増えている。検討会では、文字によるやり取りであっても、事業者から個別に働きかけられ、断りにくい状況が生まれる点では電話勧誘と本質的な違いはないと整理した。
当日の検討会に出された中間取りまとめ案では、スマートフォンやパソコンの画面を通じ、特定の相手と双方向で文字情報などを送る行為を「チャット等」とすると定義。SNSだけでなく、電子メールやSMSも含める考えで、やり取りの中で送られる画像や動画、ボイスメッセージ、オンラインセミナーなども対象とすることなどが盛り込まれた。その一方で、返信できない一斉配信や単発のポップアップ広告など、双方向のやり取りを想定していないものは、それだけでは勧誘規制の対象にしない。通常のネット取引まで過度に規制しない線引きを重視した。
前回の第8回からの修正で注目されるのは、契約場面の規律がより明確になった点だ。第8回案では、チャットによる勧誘後にネット画面で申し込みをする場合、画面上の誘導手法の影響を踏まえた規律を設けるとの記述だった。第9回案では、「基本的には電話勧誘販売と同等の規律を設けるべき」と踏み込み、不意打ち的な勧誘から契約に至る一連の過程を電話勧誘販売に近いものとして扱う方向性を鮮明にしている。
具体的には、チャットによる勧誘を始める前に、販売業者などの名称、勧誘者の氏名、商品・サービスの種類、販売目的を告げることを義務付けるほか、不実告知や重要事項の不告知、威迫・困惑させる行為を禁止し、消費者が拒絶した後に同じ、または別のアカウントから勧誘を続ける行為も禁止するという。勧誘者の氏名については、法違反時の責任主体を特定する必要性から戸籍上の氏名を基本としつつ、プライバシー保護や旧姓使用などを踏まえ、引き続き検討するとした。
契約後の救済では、書面を受け取った日から8日間のクーリング・オフを認める方針を維持。不実告知などで契約した場合には取消権、必要量を著しく超える過量販売では解除権を認めるなど、電話勧誘販売や訪問販売に近い消費者保護をネット上の個別勧誘にも広げる考えだ。
「ダークパターン」への対応も、中間取りまとめの柱。「お試し」などと強調して1回限りの購入と思わせながら実際には定期購入だったり、画面設計を使って望まない契約へ誘導したりする手法について、包括的な規律を検討する。中間取りまとめ案では、消費者に「威迫、迷惑または不安」を覚えさせて申し込みを迫る攻撃的な手法に焦点を当てるとの考えを示した。技術や手口が短期間で変化するため、個別の禁止手法を法律ですべて列挙するのではなく、下位法令やガイドラインで違法・適法なパターンを示す方向だ。
ネット以外では、鍵開けや水回り修理などで広告の安価な価格を見て事業者を呼んだ後、高額契約を迫られる「レスキュー商法」、点検後に工事を始めて断りにくくする点検商法、商品購入後に他人を紹介すれば利益を得られると勧誘する「後出しマルチ」などへの規制強化も引き続き盛り込まれた。さらに、行政によるネット監視へのAI活用、複数事業者が役割分担する悪質取引への執行、適格消費者団体による差止請求の対象拡大なども検討する。
第8回から第9回への修正では、制度の大枠を変えるというより、委員の議論を踏まえて「どこまでを規制対象とし、どこからを通常の取引として扱うのか」という境界を精緻化した点が特徴。チャット勧誘では通常の顧客対応や継続的な取引関係に基づく連絡を巻き込まないこと、ダークパターン対策では適正なUI設計まで萎縮させないことなど、事業者側の予見可能性にも配慮する姿勢が強く示されている。
また、契約書面の電子化を巡っても議論が深まった。オンラインで取引が完結する場合は承諾手続きを簡素化すべきだとの意見がある一方、中間取りまとめ案には、チェックボックス方式では事業者の誘導によって消費者の真意によらない同意が行われる恐れがあるとの指摘が追加された。高齢者などが電子書面を認識・管理しにくい問題もあり、紙を原則とする現行制度を当面維持すべきだとの慎重論も併記された。
中間取りまとめ案は、1月から9回にわたった議論を踏まえた内容。消費者庁には今後、相談現場や事業者の取引実務、消費者契約法を巡る別の検討会との整合性を考慮しながら、実務・法技術面でさらに検討し、必要な制度整備を早期に実現するよう求めている。