
モノを買ったり、サービスを利用したりするとき、私たちは誰もが「消費者」です。消費者政策の基本を定めた「消費者基本法」は、私たちの生活に身近な法律といえます。どのような法律なのでしょうか。法律が生まれた時代背景と、その後の社会の変化をたどると、消費者基本法の姿が見えてきます。
1945年の終戦後、1950年代半ばから日本は高度経済成長期を迎えます。戦時中はモノが不足していましたが、技術革新や大量生産によって、さまざまな商品が市場に出回るようになりました。プラスチック製品や合成繊維の衣類、インスタント食品、家電製品など、生活を便利にする商品が次々と登場し、消費生活は大きく変化しました。
一方で、市場に出回る商品の中には、消費者の安全を脅かすものもありました。
1955年には、ヒ素が混入した粉ミルクを飲んだ乳幼児に重い中毒症状が相次いだ「森永ヒ素ミルク中毒事件」が発生しました。また、サリドマイドを含む医薬品を妊婦が服用し、胎児に深刻な被害が生じる「サリドマイド薬害」も大きな社会問題となりました。
表示をめぐる問題も起きました。1960年の「ニセ牛缶事件」では、牛肉の缶詰として販売されていた商品の中身に鯨肉や馬肉などが使われていたことが分かり、商品の表示に対する消費者の不信を招きました。
こうした問題を背景に、薬事法(現在の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」)の改正や、景品表示法の制定など、消費生活に関わる法律の整備が進みました。個別に法律が整えられていく中、1968年、消費者行政全体の基本的な枠組みを示す「消費者保護基本法」が制定されました。
法律の名称にあるように、当時、消費者政策の中心にあったのは「保護」という考え方でした。消費者は事業者に比べて、情報の質や量、交渉力などで弱い立場にあると考えられました。そのため、行政が事業者に一定の規制を行うなどして、消費者を守ることが重要だったのです。
消費者庁のウェブ教材「消費者問題の歴史」では、消費者保護基本法制定以降の消費者行政について、「事業者を業法により規制し、消費者は行政に『保護される者』として捉えられてきました」と説明しています。
しかし、時代は変化していきます。急速な経済成長に加え、広範囲にわたる規制緩和、IT化や国際化の進展などにより、消費者を取り巻く環境は大きく変化し、従来の「保護」を中心とした消費者政策を見直す必要性が高まっていきました。
この改正の背景を知る上で重要なのが、国民生活審議会消費者政策部会が2003年に取りまとめた「21世紀型の消費者政策の在り方について」です。報告書では、消費者を「自立した主体」として捉えることの重要性が示されました。
報告書は、消費者が「自立した主体」として能動的に行動するためには、安全が確保されること、必要な情報を知ることができること、適切な選択を行えること、被害の救済を受けられること、消費者教育を受けられること、意見が反映されることなどが重要であり、これらを「消費者の権利」として位置付け、消費者政策を推進する上での理念とする必要があるとしています。
つまり、消費者を「保護される者」から「自立した主体」へと捉え直し、安全の確保や必要な情報の入手などを「消費者の権利」として位置付け、その権利を実現するために消費者政策を展開することが求められたのです。
こうした考え方を踏まえ、2004年5月26日に改正法が成立。同年6月2日に公布・施行され、消費者保護基本法は「消費者基本法」へと改められました。 同法は「消費者の権利の尊重」と「消費者の自立の支援」を基本理念とし、安全や選択の機会の確保、教育の提供、政策への意見反映、迅速な被害救済など、消費者の権利を位置付けています。
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